アルコール依存症
アルコール依存症は、飲酒すれば、誰でも罹りうる危険性がある疾患であり、潜在的な患者数は数百万人とも言われています。病気である以上、治療が必要となりますが、特効薬があるわけではなく、ひとりで克服することが非常に困難な病気です。病気の特徴をとらえて、「進行性で死に至る病気」「回復する病気」「家族全体の病気」と言われています。
「進行性で死に至る病気」
徐々に飲み方が変化する中で、身体的・精神的健康を失います。内科的には、肝障害だけでなく膵炎や脳の萎縮などの多臓器障害を引き起こすこともあります。このように病気が進行し依存が深まると、社会的信頼を失い孤立が進み、心は枯れ、ついには死に至ります。
「回復する病気」
進行性の病気、死に至る病気ではありますが、回復可能な病気でもあります。一旦、依存症になってしまうと、以前のように節度のある飲酒(節酒)は難しく、完治することはありません。しかし、完全に飲酒をやめること(断酒)を継続することで、多くの人々が回復して、いきいきとした生活を取り戻しています。
「家族全体の病気」
飲酒により本人が起こすトラブルや生活の乱れに、何とか対応しようと、家族や周囲の人は一生懸命になります。しかし、尻拭いや後始末に疲れ果てた家族は、心身ともに不健康な状態に陥ってしまします。
3つのコントロール障害
アルコール依存症は、徐々に進行する中で、様々なものを失います。その原因は以下の3つのコントロール障害です。
「飲酒のコントロール」が難しくなる中で、「感じ方・考え方のコントロール」が難しくなり、その影響を受け「対人関係のコントロール」が難しくなるといった悪循環がおこり、喪失の連鎖が始まります。どのコントロール障害が重いか、またどのコントロール障害から始まるかなど個人差はありますが、この3つのコントロール障害の悪循環をくるくると繰り返しながら、依存は深まっていきます。
1. 「飲酒のコントロール障害」
アルコール依存症は、アルコールを上手にコントロールして飲むことができなくなる病気です。肝障害や糖尿病などの身体合併症を引き起こしても、お酒をやめることが困難です。また、飲む量だけでなく、飲む時間や飲み方などにおいてもやめようと思ってもやめられない状態になります。お酒をやめない限り、最後は肉体的な「死」を迎えることになってしまいます。
2. 「感じ方・考え方のコントロール障害」
アルコール依存症は、身体だけでなく、心にも様々な障害を引き起こします。長い年月に渡って、酔いの中で生活していると、適切な考えができなくなったり、自分の感情を感じ取れなくなったりします。お酒に心が囚われることで、「お酒と自分」しかなくなり、他者に対する思いやりを失い、「何もかも相手が悪い」という他罰的な思考や、「自分なんてどうせだめだ」といった自己否定感に陥ります。本来、健康な自分が持っていた感じ方・考え方が失われ心が枯れていきます。
3. 「対人関係のコントロール障害」
病気の進行とともに考える心や感じる心が歪んでいくと、必ず対人関係にも支障が起きてきます。人との約束を破ったり、その場しのぎの嘘をついたり、自分でも気づかないうちに家族や友人など身近な人だけではなく、周囲の人を傷付けてしまうことで、社会的な信頼をも失っていきます。その結果、対人関係のコントロール障害が起き、誰からも信じてもらえず、社会的に孤立する状態になってしまいます。
アルコールが引き起こす多臓器障害
Ⅰ) アルコールが直接作用するもの(薬理作用による障害)
Ⅱ) 栄養不良によるもの(食事量、下痢などの胃腸障害に伴うビタミンやタンパク質の不足)
アルコールによって障害を受ける主な臓器※()内は症状
- 肝臓
- 脂肪肝 → アルコール性肝炎(倦怠感) → 肝硬変(黄疸、腹水、脾腫・血球減少、手掌紅斑、クモ状血管腫、胃食道静脈瘤、肝性脳症)
- ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)の増悪
- 肝癌の発生促進 (すでに癌があった場合、増悪しやすくなります)
- 膵臓(すい臓)
- アルコール性急性・慢性膵炎(激しい心窩部・背部痛、重症化すると死亡することも)
- 糖尿病 → 網膜症(失明)、末梢神経障害(手足のしびれ・痛み)、腎症(透析導入)
- 胃腸
- 胃炎(心窩部痛)
潰瘍ができることもある。また、粘膜の刺激等により、食道癌や胃癌が発生することも。
- マロリーワイス症候群(吐血)
飲酒や嘔吐を繰り返していると、突然粘膜が裂けて出血
- 胃食道静脈瘤(吐血)
肝臓での血流が悪くなり、行き場のなくなった血液が、胃や食道の小さな静脈に流れ込み、血管が腫れてきます。(破裂すると大出血、緊急性高い)
- 胃炎(心窩部痛)
- 心臓
- アルコール性心筋症(心肥大 → 息切れ・動悸 → 心不全)
- 心筋梗塞などのリスクも上昇 → 突然死
- 脳
- 脳萎縮(ろれつが回らない、歩行困難、人格変化など→人間的な生活が困難に)
- ウエルニッケ脳症(ビタミンB₁欠乏)
↓
- コルサコフ精神病
-
① 物忘れ (記銘力障害)
② 時間場所人物がわからなくなる (見当識障害)
③ その場しのぎで作り話やウソを言う (作話)
- ペラグラ (ニコチン酸欠乏 → せん妄、皮膚炎、下痢)
- 脳血管障害のリスクも上昇 (脳梗塞、脳内出血など)
- 神経、骨、筋
- アルコール性神経障害(手足のビリビリ)・筋肉障害(筋痛、筋肉減少)
- 骨粗粗鬆症 (骨折しやすくなる)
- 大腿骨頭壊死 (痛み、歩行困難)
- 生殖器
- 胎児性アルコール症候群
- 男性不妊 (インポテンツ、精子減少)
小谷クリニックでは、内科+精神科の両面からの治療が可能です。